「水難事故」というと河川・海・プールなど外出先での事故を想像しますが、実は家庭内でも水難事故(以降、溺水事故と表記)は起きています。実際、平成28年に東京都が未就学児の保護者3,000人を対象に行った「乳幼児における家庭内の水回りの危険」におけるアンケートでの「家庭内で水回りの危害及びヒヤリ・ハット経験があるか」という問いでは、「ある」と答えた保護者が1,671人にもなりました。また、そのうち1,299人が浴槽で起こったと回答しています。
今回は家庭内に潜む危険・お風呂での溺水事故について、原因や予防策、対処方法をお伝えします。
前回の記事、「子どもの水難事故にご用心!~河川・海・プール編~」をまだ見ていない方はこちらも参考にしてみてくださいね!
目次
◉深さ数センチでも溺れる子どもの溺水事故
◉子どもは音もたてずに沈んでいく…“本能的溺水反応”
◉お風呂での溺水防止のための注意点
◉もしもわが子が溺れてしまった時の対処法
◉日常生活に潜む落とし穴に要注意!
◉参考資料
深さ数センチでも溺れる子どもの溺水事故
実は口と鼻さえ塞がってしまえば深さ数センチでも溺れてしまう乳幼児。「え、こんな短時間で?」「うそ!?こんな水量で?」と驚くケースも多いです。
実際の事例として、どんな場面での事故が多かったのか一緒に見ていきましょう。

1歳と4歳の息子と一緒に入浴しようとしていた。先に下の子を浴槽に入れ、上の子の服を脱がせている間に、下の子が溺れていた。浴槽下におもちゃが落ちていたため、それを拾おうとしたのではないかと思う。

自分の身体を洗うため、首掛け式浮き輪を使用して娘を浴槽に浮かせていた。目を離した隙に、浮き輪から頭が外れ、沈んでしまった。すぐに気が付いたからよかったものの、気が付かなかったらと思うとぞっとした。

暑い日だったため、お風呂に水を入れて0歳の娘と3歳の息子を遊ばせていた。数センチしか水を入れていなかったので下の子を座らせたまま、タオルを取りに少しの間離れて戻ると、うつ伏せに倒れ、口と鼻は水に浸かっている状態だった。
など、「うちも結構やってしまっている…」と感じた方も多いのではないでしょうか。
どれも些細な不注意ですが、子どもにとっては命取り。なんとも恐ろしい場面です。
子どもは音もたてずに沈んでいく…“本能的溺水反応”
「溺れる」というと、手足をバタつかせ、大声で「助けて~!」と叫んでいるシーンを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。映画やドラマ、マンガなどでこのようなシーンがよく出てきますよね。ただ実際に人が溺れるときは映画とはまったく異なります。
人が溺れた場合、ほとんどの人は呼吸をするだけで精一杯。声も出せず手や足を振って助けを求める余裕もなく沈んでいきます。この反応を本能的溺水反応”と言い、最近だとSNSで4.5万件リツイートされた「教えて!ドクター」プロジェクトチームの投稿ではじめて知った!という方もいらっしゃるのではないでしょうか。さらに子どもの場合は、自分に何が起きたのかわからず沈んでいき、さらに大人と比べて沈む速度も速いため、静かに早く溺れます。だからこそ、子どもの溺水は特に気が付きにくいのです。
お風呂での溺水防止のための注意点
大切なわが子を守るためにも、まずは下記注意点を意識してみてください。
➀大人が洗髪する時は子どもを浴槽から出す
ほんの数秒でも、目を離した隙に子どもは溺れる可能性があります。どうしてもできない場合は洗髪中常に子どもに話しかけるなどして、反応を確認しましょう。
➁子どもは大人の後に浴室に入れ、先に浴室から出す
浴室に子どもだけが残らないような環境づくりを心がけましょう。
➂子どもだけで入浴させない
年上の子がいるからと安心せず、必ず大人が付き添いましょう。
④首掛け式浮き輪を使用しない
首掛け式浮き輪はプールで使用する目的で販売されており、入浴用品ではありません。そのため誤った使い方をすると外れる危険があります。
⑤お風呂の蓋の上に子どもを乗せない
ベビーバスを浴槽の蓋の上に乗せて沐浴をしたり、子ども自身を乗せて身体を拭いたりなど、浴槽内に転落するリスクのある行為はやめましょう。
⑥子どもの入浴には複数の大人が関わるようにする
子どもと一緒に入浴する場合、シャンプーをとったり、自身の洗髪をしたりと“子どもから一瞬たりとも目を離さずにいる”ということは非常に困難です。入浴中はパパ、出てから着替えまではママのように、家族でできるだけ協力し合い、少しでもリスクを減らしましょう。
⑦入浴後は浴槽の水を抜く
入浴中でなくても、目を離した隙に浴室に行き、浴槽に落ちてしまったという事例もあります。特に子どもが小さいうちは、浴室のドアの施錠、入浴後は必ず浴槽の水を抜くなどの対策をしましょう。
⑧ベビーゲートを設置する
入浴準備のために浴槽にお湯を入れている際は、ベビーゲートを設置したり、ドアを施錠しましょう。
もしもわが子が溺れてしまった時の対処法
万が一わが子が溺れてしまったら?慌てないために対処方法を覚えておきましょう。
➀すぐに浴槽から出し、平らな場所に寝かせる
まずは意識があるか、意識があっても目の動きがおかしくないか、顔色が悪くないかなどを確認します。大きな声で呼びかけてみて反応がなければ119 番(消防)へ通報しましょう。
➁家族などの協力者を呼ぶ
119番(消防)への連絡、応急処置などを手伝ってもらいます。
➂反応と呼吸がない場合、直ちに心肺蘇生(胸骨圧迫と人工呼吸)を開始する
できれば電話で救急隊の指示に従いながら心肺蘇生を行いましょう。
④無理に水を吐かせない
胃の内容物が逆流して窒息する危険があるため、まずは心肺蘇生を優先します。途中で水を吐いたら、体を横に向けて気道を確保します。
⑤意識がある場合は、タオルなどで水気を拭き、包んで保温する
顔と体を横に向けて回復体位をとります。ここでも無理に水を吐かせないようにしましょう。
日常生活に潜む落とし穴に要注意!
今回は“子どものお風呂での溺水事故”に焦点を当てて紹介させていただきましたが、子どもに限らず大人でも、洗面器1杯の水があれば溺れてしまう可能性があります。
子育ては複数の作業を同時進行で行わなければならず、どんなに注意しても“子どもから目を離してしまう瞬間がある”ということを前提で考えると、入浴時こそ家族全員で協力し合うことが大切ですね。
安心安全なバスタイムを楽しめるよう、今一度入浴時に潜む盲点を確認してみてください!
参考資料
東京暮らしWEB | 乳幼児の家庭内の水回り事故防止ガイド |
消費者庁 | 御家庭内での子どもの溺水事故に御注意ください! |
東京消防庁 | STOP!子どもの「おぼれ」 |
東京消防庁 | 乳幼児の溺れや窒息に注意 |
教えて!ドクター | こどもは静かに溺れます |
※本ページの内容は、特に記載のないものを除き、記事執筆時点でのものになります